『少女病』(田山花袋)
この『少女病』は短編で、自然主義小説の大家である田山花袋の初期作のひとつだ。それほど有名ではないから、全集でも探さないと見つからない。
そして、田山花袋の全集を探す人なんてあまりいない。本作にしたってもう百年も前の小説なのだ。
しかし、この作品は非常に興味深い。タイトルを一見して「ロリコン」という言葉を思い浮かべる人は多いんじゃないだろうか。
多分「ロリコン」にも色々あるんだろうが、この「少女病」はその定義からは少し外れる。ここでいう『少女』は20歳以上も含む、まぁ若い女性程度の意味だ。
この小説の主人公は、中年で妻子もちなのだが、電車の中で若い女を眺めるのが唯一の楽しみだ。なんだか変態的に響くが、百年前でもやっぱり変態扱いされたらしい。
仲間からは「少女病」と呼ばれ、病気扱いされている。現代でも妙な性癖がある人を病気扱いする風潮はあるが、これ、百年前の小説とは思えない生々しさがある。
特に面白いのは、これが明治40年に書かれていること。電車が普及し、東京の交通が一本化され整備されたのが明治39年だから、まだ電車は最新の風俗だった。
その最新の風俗が、何をもたらしたのか? 現代の感覚では思いつかないかも知れないが、それは「中年オヤジと若い女を狭い空間に一緒に閉じ込める」という特異な空間だ。
それまで、こんな空間、できようがなかった。主人公の欲望は、これまで誰も覚えなかった欲望なのだ。
この小説を読む時、僕たちはひとつの新しいフェティシズムの誕生、その瞬間を目にする。現代でも電車の中でこっそり、可愛い女の子を見やる輩は確実にいるだろうが、そういう人はこの小説を、こっそり読みなさい。
百年前の、少し変わった日本人が、ここにいます。
『少女病』は1907年4月発表。現在は青山出版から出ている、藤牧徹也の写真が入ったものが最も簡単に入手できます。しかしこれは半分、女の子の写真集みたいなので、買うのがためらわれるかも。作品のアヤシゲな雰囲気は伝わってきますけどね。